現代はThe Silent Miaow、邦訳タイトルに猫族の深謀をみる

我が家にはもともと作り付けの書棚があって、収容量に限界がある。幾度かの引っ越しをくぐり抜けて、そこに運び込まれている本の中から、猫に関するものを引っ張り出してみた。

一冊めはポール・ギャリコの「猫語の教科書」。

副題は「子猫、のら猫、捨て猫たちに覚えてほしいこと」

知り合いの編集者の元に持ち込まれた、タイプミスだらけの原稿をポール・ギャリコが解読し、ギャリコの名で出版されたのが「猫語の教科書」だ。原題は「The Silent Miaow」、猫が人の目をじっと見つめて行う、あの、声のない鳴き方のことだ。

私が持っている文庫本サイズの「猫語の教科書」の装丁は、黄色い表紙の真ん中にタイプライターを叩いているキジ猫のモノクロ写真が配されている。翻訳者は灰島かり。

元々の原稿が暗号めいた読みづらい文章になっているのは、タイプライターのキーが猫用にできていないためらしい。

キーボードの上の猫の手
猫手ゆえのミスタッチだとみかんが実演:20201007撮影

タイトルの「猫語」に猫族日本支部のしたたかさを見る

「猫語」とあるが、猫の言語を学ぶ教科書ではなく、いかに人間をうまく躾けるかという猫向けのハウツー物だ。
第1章からして「人間の家をのっとる方法」となっているので、後の内容は推して知るべし。

この紛らわしい日本語タイトルのために、猫語を学びたいという熱心な人間が、間違ってこの本を手に取ることもあるだろうが、ここに記されているのは、猫たちがいかに深く人間心理を見極め、操って家々に君臨しているのか、いわば猫の手の内を明かすような内容だ。

我々人間からすればショッキングな記述だが、自分の猫と会話できたらと思い詰めてこの本を開く愛猫家であれば、書かれている事柄一つ一つに思い当たる節もあり、動揺しながらもその日のうちに読了してしまうのは間違いない。

そして読み終えた後、傍のソファに優雅に横たわる、あるいはヘソ天で大の字になって寝入っている策士たる猫族へ、賞賛の眼差しを向けてしまうのだ。